第11回 / ZEFシリーズ ②

ZEFゼロエネルギーファームを成り立たせる技術 ― 捨てていたものを全て繋ぐ

― 人の身体は栄養や水・酸素を取り入れ循環し代謝するための様々なパーツで出来上がっています。
自然界におけるリサイクルシステムの輪の中で人は生きる事が出来ます。

前回(第10回)は、日本が 食料もエネルギーも輸入頼み で、頼みの国産畑は天気任せ。その三重苦を解こうと室内に逃げ込んだ植物工場も、今度は電気代という弱点に足をすくわれる——という話をしました。だから、植物工場の弱点であるエネルギーを その場で自給してしまおう。それが私たちの考える ZEF(ゼロエネルギー・ファーム)でした。

「エネルギーを自給する農場」。言葉にすると一行です。でも、それを本当に成り立たせるには、これまで 捨てていたものを全て繋ぐ“からくり” が要ります。今回はその中身を一緒に解剖してみましょう。

結論から言うと、ZEFは「工場」というより 一つの生き物 に近い。食べて、息をして、汗をかいて、体温を保ち、出したものをまた拾い直す。マンガ『はたらく細胞』よろしく、施設まるごとが 一つの代謝する身体 なんです。今日はその“臓器”を一つずつ見ていきます。

目次

1. トリジェネ ― 一度の「食事」で電気・熱・CO₂を取り出す

身体のいちばんの基本は「食べて、エネルギーを取り出す」こと。ZEFの“食事”にあたるのが、太陽光・蓄電池・燃料電池の組み合わせです。

昼は屋根と敷地の太陽光が電気をつくり、余った分は蓄電池に貯めて夜や雨の日に回す。ここまでは前回までの基礎解説でおなじみですね。ZEFが一歩踏み込むのは、ここに 燃料電池 を組み合わせる点です。

燃料電池は、水素と酸素を反応させて電気をつくる装置。化学で書くと、水の電気分解をちょうど逆向きに回しているだけです。

2H₂ + O₂ → 2H₂O + 電気 + 

ここがポイントで、燃料電池は電気をつくる“ついで”に、必ず  が出ます。さらに都市ガスなどから水素を取り出す過程で CO₂ も出る。ふつうの発電所では、この熱もCO₂も「邪魔者」として大気に捨ててしまいます。でもZEFでは違う。電気・熱・CO₂の三つを、捨てずに全部使う。これを トリジェネレーション(三つの恵みを同時に取り出す) と呼びます。

豆知識をひとつ。燃料電池の原理が発見されたのは、なんと 1839年。イギリスのウィリアム・グローブという人が「水を電気分解できるなら、逆をやれば電気が取れるのでは?」とひらめいたのが始まりです。190年近く前のアイデアが、いまエネルギー自給の中核を担うのですから、技術の世界はおもしろい。電気だけ取って熱を捨てるのが「コージェネ(熱電併給)」、そこにCO₂まで活かすのが「トリジェネ」。一頭の牛から肉も乳も皮も余さずいただく、あの“もったいない精神”の発電版だと思ってください。

同じ一回の発電から、電気・熱・CO₂。捨てていた二つを拾うだけで、農場の代謝はぐっと豊かになります。

2. 魔法瓶の皮膚 ― 体温を逃がさない高断熱・高気密

せっかく取り出した熱も、壁から逃げていったら意味がありません。そこで効いてくるのが、以前 高断熱の家 の取材回でお話しした断熱技術です。ZEFの建物は、住宅用の高断熱・高気密ノウハウをそのまま農場に転用した 「魔法瓶構造」 になっています。

生き物でいえば、これは 皮膚。体温を逃がさず、外の暑さ寒さに振り回されないための一枚です。外気が真夏でも真冬でも、中はいつも植物にとってちょうどいい温度。外の天気に振り回される露地(屋外)の畑とは、ここが決定的に違います。

魔法瓶がしっかりしているほど、温度を保つために使うエネルギーは少なくて済みます。断熱は地味ですが、「使うエネルギーそのものを減らす」 という、いちばん効く電力ダイエットなんですね。第10回の取材で熱く語った断熱の話が、ここでZEFの土台として効いてくる――いわば伏線回収です。

3. 吐いた息を、植物が吸う ― CO₂の循環

ここで、さっき「捨てない」と言ったCO₂が活躍します。植物は光合成で、CO₂と水から、光のエネルギーを使って栄養(糖)をつくります。

6CO₂ + 6H₂O + 光 → C₆H₁₂O₆(糖)+ 6O₂

左辺の入口にCO₂がいますよね。じつは多くの施設栽培では、生育を促すためにわざわざCO₂を 買って 撒いています(CO₂施用といいます)。ところがZEFには、発電の“ついで”に出てくるCO₂がある。本来なら大気に捨てていたCO₂を、そのまま植物のごはんに回すのです。

ZEFでは2種類の発電を同時に使います。1つは太陽光発電、施設の屋根や周囲に太陽光パネルを設置し、大型の蓄電池で電気を貯めて夜間に使います。
そして、もう一つはLPガスや都市ガスを用いたガス発電、天然ガスは水素を含んでいます。

プロパンガス(LPガス):C₃H₈    都市ガス(メタンガス):CH₄

共に水素H₂を含んでいますので、そのH₂を燃料電池に送ると発電と反応熱から給湯を行うことが出来ます。
では残りのC炭素はどうするか!? それはO₂とくっついてCO₂となって大気に排出される事になってしまいます。

ZEFの設計ではガス発電から出たCO₂を栽培エリアに取り込み余さず植物に食べさせる設計になっています。
高気密の設計だからこその無駄のないCO₂活用が出来るのです。
更に700wクラスのガス発電機から出る1日のCO₂は100㎡の栽培空間を800ppm濃度に保つことが出来、コストはCO₂ガスを買うより3~4割安いしかも、発電した電気代や給湯の熱代は入っていません、それを合わせると実質タダか+アルファになるかもしれないのです。

ガス発電機が吐き出した捨てるはずのCO₂を農作物に食べさせる、栽培エリアから循環して排出される、酸素濃度が高く、CO₂濃度が低い空気は再び、ガス発電機に送られ効率的な発電がおこなわれ再びCO₂を補充して栽培エリアに戻します。

捨てるはずのCO₂が、野菜の生育を後押しする。「排出するもの」が「育てるもの」に変わる瞬間です。

4. 植物の汗を、もう一度飲む ― 水のほぼ完全循環

次は水です。植物も人間と同じで、葉から水分を 蒸散(汗をかく)します。露地の畑では、この汗も、撒いた水の大半も、地面や空気にしみ出して消えていきます。

閉じた施設なら話は別。汗としていったん空気中に出た水蒸気を、産業用除湿器で冷やして 水滴に戻し(凝縮)、もう一度養液として循環させられます。汗を、もう一度飲むイメージです。さらに、根に必要な分だけを正確に届けるので、無駄撒きもありません。

ZEFの建物は、高気密・高断熱で作られていて熱や空気も通しませんが、水も同じです、内壁は全て防水素材が用いられていますので、ガス発電機から送られるCO₂の吸入エアーを排出するリターンエアーのみです。
しかも、ガス発電の排気には、CO₂に加えて、水も一緒に追加で送られてきますから、水の損失は出荷される作物のみになります。

農業用水量:約9割減

露地(屋外)に比べた水の使用量
(閉鎖型・養液循環の一般的な水準)

130L → 約6L

レタス1kgを育てる水の例
(露地比・海外の水耕事例)

世界経済フォーラムなどによれば、閉鎖型の垂直農法・水耕では、露地に比べて水の使用量を およそ9割(研究によっては95〜98%) 減らせるとされています。露地でレタス1kgに130リットル使うところ、水耕では6リットル少々で済んだという報告も。水不足が世界の課題になるなかで、これは見逃せない強みです。

正直に補足すると、ここで挙げた節水率は 一般的な水耕・閉鎖型施設の水準 であって、ZEFの実測値ではありません。私たちは「自社の試験で示せる数字」と「外部の公表値」をきちんと分けて語るようにしています。
しかしZEFの高気密空間でのパフォーマンスはより高いものを期待できます。

水の補充は屋根に降る雨水をろ過して行います。しかし、損失は少ない分雨水でも十分余りが出ます。その余った水の活用方法はブログの第3弾でお話します。

5. 捨てる熱を拾い直す ― 廃熱回収と立体多段栽培

身体は、運動で生まれた熱を体温維持に使い回します。ZEFも同じ。汗(水蒸気)を回収するために空気を除湿すると、そこに 排熱 が生まれます。この熱を捨てずに、収穫残渣の乾燥や、寒い時期の暖房バッファへ回す。「捨てる熱を拾い直す」ループを、施設の中に何重にも組み込んでいます。

LEDの熱は、蒸散と除湿によって回収され除湿の熱はヒートポンプで別エリアに送られ、農業残渣(可食部以外の茎や根や葉)の乾燥に用いられます。そして乾燥した農業残渣は、同じエリアでバイオ炭を作るために焼かれます。

一方高断熱の栽培エリアは外気の影響を受けませんので夏でも涼しく、冬でも少し寒い程度の状態になります。
その冷えすぎた分だけを、残渣処理とバイオ炭製造によって出た熱を、ヒートポンプ空調で適量戻してやるだけで常に適温に保つことが出来ます。

空調費はハウス栽培や植物工場の最大の敵です。その敵を高気密高断熱のZEFのシステムは極限まで弱体化させることが出来ます。さらに迫りくる地球温暖化、異常気象、エネルギーと水不足、害虫・害獣など、これらの敵を無効化する事ができます。

24時間365日つねに安定した栽培を維持できる、現代の農業従事者の救世主と言ってしまえるのではと自負しています。

限られた床面積を活かすのが 立体多段栽培

棚を上へ上へと積み、同じ広さで何倍もの株を育てます。
気候に左右されないから、年間を通して計画的に何度も収穫できる。
(水耕栽培なので連作障害はない)
結果として、同じ面積あたりの生産量は露地をはるかに上回ります。

露地比の土地生産性(葉物の試算例) 数十倍規模
※葉物栽培の試算

再エネ100%運用時の 電力由来CO₂(Scope1と2)実質ゼロ

数字をひとつ。同じ栽培面積で露地の 何十倍 もの量を育てられる、という試算があります(葉物の例)。ただしこれは 設計上の試算値 で、実際の倍率は作物や運用で大きく変わります。だからここでは「正確には◯◯倍」と断定せず、「桁が違うレベルで密度が高い」という事実だけお伝えしておきます。確かめられた数字は、これから実証実験のデータで一つずつ示していきます。

もう一つ大切なのは、その電気を 再エネ100%(RE100) でまかなう点。電力からのCO₂排出(いわゆるScope1と2)を実質ゼロに近づけられます。さらに、施肥を養液で精密に管理することで、畑から出る強力な温室効果ガス N₂O(一酸化二窒素) の排出も大きく抑えられると見込んでいます(こちらも現時点では試算)。

食べて、息をして、汗をかいて、体温を保ち、出したものをまた循環させる。パーツの足し算ではなく、一つの“代謝”として回り始めます。

6. 部品が「身体」になるとき

ここまで見てきた太陽光・蓄電池・燃料電池・断熱・CO₂・水・廃熱。一つひとつは、これまでの基礎解説シリーズで扱ってきた“部品”です。ZEFの優位性は、新開発の技術にあるのではありません。すでにある既存技術を、つなぎ直したことにあります。部分的にはこれまで用いられてきましたが、導入コストと収支コストが嚙み合わずそれほど効果を上げる事が出来ずに時には断念されてきました。

ここに、木造住宅では当たり前のZEH技術を投入する事で歯車は噛み合いエネルギー収支バランス、CO₂問題や水問題を全て解決し一つの生態系循環のように回し続ける事が出来るようになるのです。

電気をつくる“ついで”の熱とCO₂を植物に回し、汗をかいた水を飲み直し、逃げる体温を皮膚で抑える。バラバラだった部品が、こうして 一つの代謝する身体 として回り始める。それがZEFという農場の正体です。

もちろん、いいことばかりではありません。立ち上げには相応の設備が要りますし、自給といっても季節や天候で足りない分は蓄電池や系統で補います。「100%完璧な永久機関」ではないのです。それでも、捨てていたものを拾い直すほど、外の世界の価格変動と気象変動に振り回されにくい強い農業になっていく。私たち自然とエネルギーが面白いと感じているのは、まさにこの“しぶとさ”です。

次回(第3本)予告

技術はそろいました。問題は、これを どう広げ、日本の備えに変えるか です。エネルギーの“変動費”を“固定費”に置き換える発想、補助金との正しい付き合い方、QRで一つひとつの野菜のエネルギーとCO₂を開示する透明性、そして災害でも倒れない“食とエネルギーのノード”としての役割――。最終回は、読んでくださっているあなた自身が、この物語にどう関われるかをお話しします。お楽しみに!!

第10回 ZEFゼロエネルギーファーム解説① なぜ今、エネルギーを自給する農場が必要なのか

自然とエネルギー

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この記事を書いた人

自然とエネルギーの代表取締役
20年にわたり1500件以上太陽光発電および蓄電池設備の施工を行い再エネ建築の最前線で活動してきました。
同時に、映像技術関連の業務を行い、動画写真撮影、イベントなどでの映像設備構築を行ってまいりました。

特にドローン等を用いた災害現場での映像情報の撮影活動も行い
2014年 Rescue3 (国際レスキュー資格)Technical Rope Rescue 山岳救助資格
2015年 Rescue3 Swiftwater Rescue 水難救助資格 取得

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