ZEFという城を建てる ― 外に漏らさない、外に振り回されない農業へ
天気にも、外敵にも、電気代にも、補助金にも振り回されない。今回は「この技術をどう広げるか」の話です。

第10回では、日本が食料もエネルギーも輸入頼みで、頼みの畑は天気任せ——だから エネルギーを自給する農場 ZEF を考えた、という話をしました。第11回では、捨てていた熱もCO₂も水も全部つなぎ直すと、施設まるごとが 一つの代謝する身体 になる、という中身の解剖をしました。
3本目の今回は、いよいよこれをどう広げ活用する事が出来るか?を話したいと思います。
その前に、ZEFとは何かをもう一度、今度はたった二行で言い表す事が出来ます。
・エネルギーも、温室効果ガスも、外に漏らさない。
・外の気候変動の影響を、受けない。
出さない、そして受けない。そのふたつを包含したクローズドした農業。……と聞くと「閉じこもるのか」と思われそうですが、今回お話ししたいのはむしろ、閉じることで初めて 打って出られる ようになる、という逆説です。
思えば日本の農業は、千年以上ずっと 「野戦」 でした。空の下で、天気と、虫と、獣と、相場と戦い続ける苦戦の歴史でした。それに対してZEFは、そこに 「城」を建てよう という提案です。今日はこの“築城”の話、最後までお付き合いください。
1. 野戦は、もう限界だ ― 農家の苦悩とZEFの答え

まず、いま野戦の最前線で何が起きているかを直視しましょう。
平均68歳
基幹的農業従事者の平均年齢
(農林水産省統計より)
約20年で半減
基幹的農業従事者数の推移
(同上・約224万人→約116万人)
日本の農業の担い手は平均68歳。この約20年で半分近くまで減りました。そこに気候変動が追い打ちをかけます。年々ひどくなる猛暑の炎天下での作業。農作業中の熱中症は毎年、命に関わる事故を出しています。さらに、疫病・害虫との終わりのない消耗戦。シカやイノシシによる獣害は全国で 年間150億円規模。丹精込めたブドウが収穫前夜にごっそり盗まれる、なんてニュースも毎年のように聞きます。そして病害虫と戦うための農薬や除草剤の散布は、真夏に装備を着込んで行う重労働で、散布する本人の健康リスクとも隣り合わせです。
天気と戦い、虫と戦い、獣と戦い、盗人を警戒し、薬を撒く自分の身体も心配する。……これ、冷静に診ると、ほとんど 四面楚歌の野戦 です。しかも司令官の平均年齢は68歳。「若者よ、この戦場を継いでくれ」と言って、手を挙げる人がどれだけいるでしょうか。担い手不足は、若者のせいではありません。戦い方のほうを変える時期なのだと私は思います。
いっぽう高気密高断熱の城壁の内側では——
防疫・防虫対策
ZEFの建物は外壁の内側が多重断熱層になっていて、栽培エリアは100㎡が1区画ブロックに区切られ、一つの作業エリアと複数の栽培エリアに分かれています。そして、作業エリアには、シャワー室と更衣室があり、清潔な作業着に着替えて、クリーンルームを通ってから、栽培エリアに入ります。そして栽培エリアには窓一つなく、空気はコージェネレーションから作られた高濃度CO₂のエアーがダクトを通して送られ、酸素濃度の高いリターンエアーは、コージェネレーションに返され機械の中で発電とCO₂製造時の高温によって殺菌され再び循環します。
つまり虫も空気感染の疫病もが入らず蔓延しない構造だから、そもそも 農薬を撒く必要がない。撒かないから散布リスクもありません。
万が一、害虫や疫病(入荷から)が混入した場合も、密閉空間(100㎡×天井高2.6m=260㎥)ですから少量の薬剤散布で薬効をブロック全体に行き渡らせます。殺虫確認後エアーは入れ替えられ、水耕栽培のリターン水はROフィルターとUV投射で薬効を除去し可能な限り早くクリーンな状態に戻します。そしてそのロットを低農薬の使用を表示販売します。
さらに当然シカやイノシシも鳥や熊もこの城壁は越えられません、鉄壁の要塞と言えるでしょう。
快適な労働環境
作業はつねに温度と湿度の管理された室内。真夏でも真冬でも、人にも植物にも快適な温度です。炎天下の中腰作業ではなく、立体多段の栽培棚に向き合う軽作業が中心になり移動範囲は狭く、重いタンクや肥料を持ち歩く必要もありません。高齢の方や体力に自信のない方でも作業できる働き方改革が起こります。
規格や設計を統一しやすく、将来ロボットの導入や育成状況の管理などを機械化しAIを組み合わせた、より労働力の少ない栽培を行える可能性を秘めています。
盗難対策
つぎは盗人対策です。施錠と入退室管理で盗難対策は「収穫前夜の見張り」から「建物の管理」に変わります。
そして季節がありませんから植え付けと収穫は年間を通じて計画どおり数日に一度の出荷に合わせて棚ごとに段階的に行います。つまり強引に窃盗団が押し入っても盗むものが常に少量しかありませんから盗むメリットがリスクを下回ります。そもそも収穫期が無ければ盗むタイミングが無いことになります。
敵に合わせて戦い続けるのが野戦。敵をそもそも戦場に入れないのが城。農家の苦悩の多くは、「外」から来ていたのです。城内には安心・安全・快適が常にあります。
2. 兵糧攻めが効かない城 ― エネルギーの変動費を固定費に

さて、戦国の攻城戦でいちばん恐れられた戦術をご存じですか? 力攻めではありません。兵糧攻め です。どんな堅城も、食い物と水が尽きれば落ちる。
現代の農業と植物工場にとっての主たる兵糧はエネルギーです。燃料と電気、そしてCO₂と肥料。ここ数年の世界情勢で、この“兵糧”の値段が乱高下するのを、私たちは嫌というほど見てきました。まさに兵糧攻めに農業事業者の皆さんは苦しんできました。第10回でお話しした通り、せっかく天候から逃れて室内に入った植物工場が、今度は電気代に足をすくわれて撤退していく——まさに兵糧攻めで落城です。
解決策は二つです。
一つ目は、前回話したように高気密高断熱の魔法瓶のような構造による、超省エネルギー栽培が出来る事です
そして2つ目は兵糧を城内で自給する設備を最初に構築すること。それにより太陽光と蓄電池と燃料電池で、使うエネルギーを自分の敷地で一定価格で作り出せる。これを経済用語で言い直すと、こうなります。
毎月支払う電気代(変動費)を、設備への投資(固定費)に置き換える。
いわば「25年分の電気を、先にまとめて買っておく」発想です。
外の燃料価格がどれだけ暴れても、太陽は値上げをしてきません。ここまでは「守り」の話。でも、この構造には面白い「攻め」の顔があるんです。
インフレ、つまり物価が上がる局面を考えてみてください。今の日本において燃料代・電気代・資材代が膨らんで農家や工場は利益が薄くなります、その利益を少しでも確保するために売価を上げます。そのため物価は上昇します。これをコストプッシュインフレと呼びます。
ところがZEFは、最初の設備投資で作った発電と蓄電によりエネルギーを自給しているのでコストがほとんど増えない。一方で、育てた野菜の販売価格はインフレと一緒に上がっていく。設備投資の返済額は最初に決めた金額のまま変わらない。……お気づきでしょうか。物価が上がれば上がるほど、収益が厚くなるんです。
これから日本はデフレではなくインフレの時代に入ります。
初期投資で兵糧を固定費に変えた城は、インフレが進むほど備えの価値が増していきます。だから早く築城するほど、守りの城が攻めの城に変わるのです。
インフレが敵ではなく、味方になる農業。世の中の大半のビジネスと逆向きの、ちょっと特異な構造です。私はこれをZEFの隠れた大砲だと思っています。
3. 援軍がなくても落ちない城 ― 「安く作る」より「強く売る」

ここで、農業問題で触れにくい話をあえてします。補助金です。
いまの日本の農業は、多くの分野で補助金が経営を支えています。食料安全保障を考えれば、それ自体は必要な政策です。私は補助金を否定しません。ただ問題はその先で、補助金があってなお利益率が低い 構造が続いてきたことです。「頑張っても儲からない」が続けば、担い手が減るのは当然で、減るからまた支援が要る——この循環を、どこかで断ち切りたい。
だからZEFは設計思想として 補助金を前提にしない収支で成り立つこと を最初の条件にしています。援軍が来なくても落ちない城として設計する。そのうえで補助金が得られれば、築城が早まり、守りがさらに固くなる。補助金は城の柱ではなく、援軍。この順番だけは絶対に守りたいのです。
「そうは言っても、何で稼ぐの?」
高い生産性
栽培エリア100㎡×天井高2.6m=260㎥(断熱壁で少し小さくなります)の中に、4段の棚の水耕ラックを並べ高密度栽培を行います。さらに休耕はありませんから、収穫後すぐに新しい苗を計画的に植えてゆき、年中収穫できるサイクルを組むことが出来ます。
例えば葉物野菜なら、植え付けから収穫まで35日で1サイクル。露地では同じ畑で年に1〜2作がやっとのところ、天候に邪魔されない城内では 年10回転以上 回せます。さらに棚を4段に積む立体多段栽培を掛け合わせると、設計上の試算では、約200㎡の栽培ブロックで、露地の畑1ヘクタール(10,000㎡)に迫る年間株数 を育てられる計算になります。50分の1の広さで、ほぼ同じ収穫。この密度と回転こそが、補助金に頼らない収支の土台です(もちろんまだシミュレーションの数字です。実証で一つずつ確かめていきます)。
少ない面積で高い生産性による収益と、安定した売電収益から補助金0でも黒字化するポテンシャルがあります。
ZEFは「安く作る」競争には参加しません。狙うのは 「強く売る」。武器は三本あります。
1本目は、品質と歩留まりです。ふつうの施設栽培では、電気代が怖いから光を絞り、CO₂は買い物だから施用をためらう。つまり“兵糧をケチりながら”育てています。ZEFは逆です。エネルギーもCO₂も安定して使える、植物が欲しがるだけ惜しみなく与えられる環境を作れます。
そして先にも述べたように、気候変動や病害虫や害獣、盗難のリスクが無いに等しい。
それによって安定した品質と高い歩留まりを実現し、季節を問わず年間を通じて安定供給を行えます。
多くのマーケットはその安定性を高く評価します。
2本目は、脱炭素そのものが商品価値になる時代が来ることです。第1回で解説したScope1・2・3を覚えているでしょうか。自社の直接排出がScope1、買った電気の排出がScope2、そして 仕入れたモノの排出まで含めた責任がScope3。いま大企業には排出量の開示を求める流れが世界的に強まっていて、スーパーも食品メーカーもホテルも、やがて「仕入れた野菜の温暖化ガスの排出責任」まで問われる時代になります。そのとき、栽培段階の排出が実質ゼロの野菜は、買い手の帳簿ごときれいにしてくれる商品です。喉から手が出るほど欲しがられる日が必ず来る。まだ日本の青果市場に「脱炭素プレミアム」の相場は立っていません。だからこそ、その市場が立ち上がる場所に、最初に旗を立てにいく、先行者利益を掴むチャンスを掴むことが可能になります。(※エネルギーとCO₂の履歴は、パッケージに付けられたQRコードで誰でも見られるようにする計画もあります)
3本目は、選択肢の自由です。エネルギー価格が高騰したとき、周りの施設栽培は「電気を食う作物」から順に諦めていきます。でも兵糧自給の城は違う!!。ライバルが省エネ作物に籠もるしかないその瞬間に、光をたっぷり要求する高単価の作物へ 打って出る ことができる。
例えば、イチゴには一季なりと四季なりの品種があり、一季なりは冬から春の寒い季節しか育てられませんが、美味しく高価です。四季なりは育てられる期間は長いですが低価格になりがちです。ZEFの高断熱高気密空間では植物の蒸散と除湿により、夏でも外気の影響を受けず少し加温が必要なくらい涼しい状態になります。ですから夏でも潤沢な発電電力を用いて一季なりのイチゴを育てる事が出来、市場価格が高い時期に売る事ができます。
守りが固い者だけが、攻める自由を手にするのです。
こうした収益率を高めるポテンシャルの上に補助金が加われば初期投資は軽減し、利益率は向上します。
品質で選ばれ、脱炭素で選ばれ、局面に応じて作物を選べる。収益性が高く、外部要因のリスクが低い。……これはもう、農業を「継がされる家業」から、投資や融資の対象として誰もが欲しがる、利益を生む資産価値のある城に変える話です。それが担い手不足を解消し、エネルギーと食料の自給率を高める有効な手段になるのではないでしょうか。
4. 城は、領民のためにある ― 災害と気候変動への適応

ここで歴史豆知識をひとつ。熊本城を築いた加藤清正は、籠城戦への備えとして城内に銀杏の木を植え、畳の芯に里芋の茎(芋がら)を、土壁にはかんぴょうを仕込んだ——つまり いざとなれば食べられる城 を造った、と伝わっています。そして築城から約270年後の西南戦争で、熊本城は実際に52日間の籠城に耐え抜きました。名将の備えは、世紀を越えて効いたわけです。
ZEFは、この「食べられる城」の現代版だと思ってください。大規模な災害で停電しても、太陽光と蓄電池で電気は生き続け、野菜は育ち続ける。周りが真っ暗になった夜に、明かりと食料と電源のある建物が地域に一つある——それがどれほどの安心か。災害大国の日本でこそ、食とエネルギーの防災拠点(ノード) としてのZEFの価値は大きいと考えています。
そして「災害」と呼ぶほどではない、じわじわ来る異常——観測史上最高の猛暑、突然の冷夏、豪雨、水不足。露地の畑には全部直撃ですが、ZEF城内には届きません。水にいたっては、第11回でお話しした通り、植物のかいた汗まで回収して再利用する、ほぼ完全な循環です。葉物野菜が蒸散した水を除湿回収します。その水を4tレベルの受水槽で純水に近い形で備蓄しながら循環させます。水の補給は建屋や太陽光パネルに降る雨水を無電力ろ過装置により純水を2tタンクに貯めて不足分を供給します。蒸散と除湿というろ過装置とROフィルターとUV殺菌により常に3t以上のクリーンな水を災害時避難所などに供給する余力があり、シャワーや洗浄などに使っても日本の気候なら一時溜まれば水を買う必要がないケースが多いでしょう。
例え大地震や豪雨といった災害でインフラや交通網が断絶しても、地域に電気・通信(衛星通信で管理)・水・新鮮な野菜や果物を避難所に供給できる籠城しても兵糧の無くならない城、少しの仕様変更で、水の少ない砂漠エリアから凍り付く北極圏エリアまで稼働する事が可能だとシミュレーション出来ています。
さらに僻地や離島の島々にも建設する事で、流通が止まっても年中新鮮な野菜や果物を供給し続けられます。
これを災害やインフラの弱い地域や自治体に建設していけば食とエネルギーの防災ネットワークを構築し復興へのレジリエンスを高める事ができるのではないでしょうか。その目的でZEFはデザインされています。
城の本来の目的は、城主の自慢や利益ではなく、領民が安心して暮らせることにあるべきです。
ZEFの目的も地域の食とエネルギーの安全保障を守る砦となる事です。
5. 城を建てるために
正直な話この城も万能ではありません。築城には相応の初期投資が要ります。現時点ではZEFが得意なのは葉物やイチゴのような作物で大根やニンジンなど根菜類は難しいです。日本中の田んぼや畑を置き換える話ではまったくありません。露地の農業が担ってきたもの、これからも担うものは大きい。ZEFはそれを置き換えるのではなく、野戦場に援護のための砦を築く事で連携を図っていく事です。
ここまで3回にわたって、なぜ必要か(第10回)、どう成り立つか(第11回)、そしてどう広げるか(今回)をお話ししてきました。読んでくださったあなたが、野菜を買う時、ゼロエネルギーでつくられた脱炭素野菜を選びたいと思って下さったり。自分の住む地域に、こんな食べられる城が近所にあったら心強いと思ってもらえたら幸いです。
また、農業ビジネスや発電事業に投資したい方々もいらっしゃるかもしれません。
更に高機能住宅を作ってこられた建設会社や工務店の方々にも農業分野へ進出に関心のある方々もいらっしゃるでしょう。
私たち(株)自然とエネルギーは、エネルギーと食料を輸入に委ねてきたこの国に、自給という選択肢を少しずつ増やしていきたいと思っています。その最初の城をこれから建てます。すでに農林水産省の国土強靭化を推進する部署とも話し合い、交付金を用いて実証実験を行う事を提案されました。
実験で得られたデータやノウハウを独占するのではなく各地の農業事業者や建設会社、電気事業者、そして自治体の皆様と共有していきたいと考えています。自然とエネルギーの利益はプロジェクトやマッチングで発生した取引金額の1%だけを各事業者から頂くというビジネススタイルです。自然と共存する技術や活動を結び合わせるこれが弊社の理念です。もしご関心のある方々はご連絡下されば幸いです。
次回予告 ― この話、まだ続きます
当初は3本で完結の予定でした。が、書いているうちに、まだ話したいことが山ほど残っていると気づいてしまいました。熱エネルギーとCO₂を回収して活かしストレージする CCUS、マイクログリッド+農業の先にある国土強靭化。
そしてその先にある 自然と人間社会の向き合い方——。近いうちにスピンオフ回として書きます。どうぞお楽しみに!!
ZEFゼロエネルギーファームを成り立たせる技術 ― 捨てていたものを全て繋ぐ


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