第8回 バイオマス基礎解説 バイオマス液体燃料が地球を救うヒーロー!?

第4回までで、バイオマス発電やメタンガスについて取り上げました。第7回ではe-fuelについて取り上げPtL(Power-to-Liquid) 電気を使って、水素とCO₂から液体燃料を作りだし、化石燃料に代わって輸送や保存がきく技術が実用化間近という話を取り上げました。

今回はバイオマス液体燃料について取り上げます。
液体燃料? 以前取り上げたメタンガスをマイナス162°で液化することが出来ます。ただ液化メタンガスには大きな欠点があります。-162°を維持しながら、高圧の耐圧タンクで移動させなければならない事です。さらに600分の1まで圧縮された液体を再び気体化して使うためにも専用の装置が要ります。ガソリンスタンドのようにノズルから注ぎだそうものなら、一瞬で周りを凍り付かせガス雲膨張が起こり、引火すればさらに被害が拡大します。こんな厄介な暴れん坊燃料ちょっとやそっとでは使えこなせません。ですから同じ敷地内の発電の一時的な貯蔵か、ロケット燃料くらいしか使い道が無いのが実情です。液化メタンの威力は抜群です!!、ただもうちょっとおとなしくて使い勝手が良ければいいのに・・・残念な奴です。他に良い奴はいないのか!?

います、それが今回取り上げるバイオ液体燃料の諸君です。彼らはもっと紳士的でありながらもどこでも働く使える奴らです。彼らは地上のバイオマスである生態系からバイオ技術によって改造された改造人間???ではなく改造燃料です。ちょっと昔の特撮ヒーロー物の響きがあって良いですね。彼らは 地底の化石燃料怪人たちと戦う正義の環境ヒーロー達です。

では次にそのヒーロー戦士たちを紹介していきましょう。

目次

バイオ燃料3戦士たち

そもそもバイオ燃料とは何でしょうか? 「植物や廃油などの“生きもの由来”の原料からつくった、液体の燃料」のことです。ガスを圧縮した液化バイオメタンと違い彼らは、糖や油から作りますので液体状態を保ち易い平和的な特性を持っています。
そして比較的歴史も古くすでに実用化されています

①バイオエタノール
サトウキビ、トウモロコシ、サツマイモ、木材、稲わらなどのバイオマスから発酵と蒸留得られるエタノール(C₂H₅OH)。つまり古来からあるアルコール・蒸留酒です。そんな古いものが何故今!?と思われるでしょう。
蒸留酒は紀元前からすでに存在していたのではないかと言われています。

工業的使用は1820年代アメリカでサミュエル・モーリィエタノールと松脂油の混合燃料を使い、内燃機関を稼働したのが始まりと言われています。
1860年ドイツのニコラウス・オットーがエタノールを燃料とするエンジンを開発し、当初のエンジンはバイオエタノールが多く使われました。内燃機関の父としてオットーが有名ですが、それよりも40年も前にサミュエル・モーリィはすでにアルコールの蒸気を燃料に、キャブレターや吸気弁まで備えたエンジンを発明していたのです。
まさに内燃機関のお爺ちゃんと呼んでも差し支えないでしょう。

それから各地でバイオエタノールを用いたエンジンが活躍しました。アメリカの農民たちは自分たちが栽培した穀物から自家製エタノールを蒸留して燃料にしていいました。
ヘンリー・フォードが作った自動車の初期モデルModel T(1908年)は、ガソリン車でしたにエタノールにも対応可能で、「農民が自分の作物から燃料を作れる時代をつくる」という理想をフォードは持っていたとのことです。

しかし、1920年代アメリカ禁酒法が制定され、飲酒だけでなく工業用アルコールまで制限されやがて、安価で熱効率の良い化石燃料車に置きかわっていきました。

1940年代第二次世界大戦の燃料不足や1970年代のオイルショックが起こり、ガソリンの代替燃料として再び脚光をあびますが、コストと供給量の問題ですぐに化石燃料に戻ってしました。

しかし、現代 バイオエタノールは地球温暖化の危機の時に再び現れたヒーローの一人として脚光を浴びるようになりました。

作り方は

  1. 糖化(でんぷん → ブドウ糖に分解)
  2. 発酵(酵母を加え、糖C₆H₁₂O₆ → エタノールC₂H₅OH +二酸化炭素 CO₂)
  3. 蒸留・脱水(燃料用は水分1%以下に乾燥)

性質:揮発性・可燃性の透明な液体。化学的には石油由来エタノールと同一。

主な利用:ガソリン代替、バイオ化学品原料。

バイオエタノールは実際にガソリンに混ぜられて使われています。

E表示と言うものがあり、E10ならガソリンに10%混ぜられた事を示していて、E50なら50%、E100ならバイオエタノール100%を示しています。

ブラジルでは実際にE100のエタノール車も走っていて、E30の混合ガソリン車FFVの両方が混在しています。

アメリカではE10が適用されていて、トランプ政権は農業界への忖度からE15への引き上げを推進しています。
日本においてはE0~E3が現状ですが、経済産業省は2030年までにE10を目指すことが検討されています。それは環境に良いことですがトランプさんの圧力が理由でないと良いですね。

②バイオディーゼル(FAME)
油脂を原料にした燃料。ディーゼル車向け、
簡単に作り方を説明すると、ろ過した油を熱して、メタノールと苛性ソーダを混ぜたものを投入して混ぜ合わせるとエステル交換という反応がおきて、FAMEとグリセリンに分離します。上澄みのFAMEを水で洗い不純物を取り除いて乾燥させるとバイオディーゼルが完成します。それをもっと工業的に行い精度を高めたものが燃料として流通しています。

原料:主に植物油(菜種油、大豆油、パーム油など)、廃食用油、動物性油脂。
欠点: 酸化安定性が低い:空気や光で劣化しやすく、保存期間が短い(半年程度)。

低温流動性:寒冷地では固まりやすく、目詰まりの原因となる。粘度が高いので、噴霧装置に調整が必要。

NOx排出増加傾向:軽油より燃焼温度が高くなりやすいため、NOxがやや増える。

原料競合:食用油(特にパーム油)の利用が食料との競合や森林破壊につながる懸念。

コスト:原油安時代には経済性で不利。補助金やカーボンクレジット制度が鍵。利点:

利点:
CO2排出削減:カーボンニュートラル性(原料の植物が成長過程で吸収したCO2を相殺)

SOx排出ゼロ:硫黄を含まないため、酸性雨の原因物質が出ない。

高い潤滑性:軽油より潤滑性が高く、エンジン摩耗を低減できる。

地産地消:地域の廃食用油を回収・精製すれば、エネルギー自立に寄与。

ちょっと豆知識です
ディーゼル燃料の発祥は1892年ドイツのルドルフ・ディーゼルという技術者がピーナッツ油でエンジンを作ったのが始まりで、彼の名前からディーゼルエンジンと名付けられました。やがてピーナッツ油から安い石油系軽油にとって代わりましたが、1937年にベルギーの科学者によって、油脂のエステル化が特許をとり、FAMEが誕生しました。

このFAMEは実際には軽油と混ぜて使用されています。
表記はB配合比率で表され、B5はFAME5%配合 B20だと20%の配合です。

日本では流通軽油にB5まで認められていて少しずつですが広まり始めています。
因みにアメリカではB20まで認められていて、管理実績の高い業務用で使われています。

安いですが欠点の多いFAMEです。そこで新たにバイオディーゼルの進化版が登場しました。

HVO(Hydrotreated Vegetable Oil)への進化

H V O ハイドロトレイト・ベジタブルオイル 名前からして、進化版的でクリーンオーガニックなイメージがしますね、さすが新型!!特撮ヒーローの番組でも後半、特訓や新たな改造でよりパワーアップする!!そんな感じです。
そのパワーアップしたバイオディーゼル HVOとはどんな奴なのでしょうか!?

ハイドロトレイトとは水素処理という意味があります。つまり植物油を水素処理すると、まず油の中のO酸素をH₂水素と結びつけH₂O水にして除去します。

この作業を水素化脱酸素(HDO)と言います。燃焼は酸化反応なので、既にOが付いていると燃え難くなります。恋愛で例えると既婚者を手に入れるために誰とでもくっつく尻の軽いH水素をあてがいC炭素とO酸素を別れさせ、恋が燃え上がりやすい状態をつくるようなものです。ヤバい!!クリーンなヒーローものイメージが、一気に昼ドラのドロドロとした世界になってしまいました。

正義のヒーローも裏では大変なんですね。

つまり熱血ヒーローは常に燃えやすい状態を作っておかねばならんのです!!孤独それが燃料戦士の宿命なのです。

と話がそれましたが、HDO処理して酸素とC炭素が別れると今度は長細いパスタのような、C炭素とH水素の長鎖と呼ばれるひも状のn-パラフィンと言う分子が出来ます。

パスタも細長いままかたまるとこんがらがって食べづらくなるようにn-パラフィンのひも状分子も粘度が高すぎて低温ですぐかたまってしまいます(炭素数C15~C18個)。それを水素でクラッキングという作業で規格に合わせて切り揃えます。同時に異性化(直鎖に枝を付ける)という反応で、ちょっと太くして(炭素数C15~C20個:軽油と同じぐらい)低温でもかたまらないオイルにします。

パスタのカッペリーニ(太さ1mm)をスパゲッティー(太さ1.6mm)にするイメージでしょうか。

そうするとより高品質で軽油と同等のHVOが生まれます。FAMEは劣化しやすく温度管理が必要なのに対してHVOは長期保存が出来、寒冷地でも使えます。


さらにクリーンな燃焼で硫黄分ゼロ → SOxなし、PM(粒子状物質)やCO一酸化炭素の排出が軽油より少ないと良い事づくめです。信頼性が高いので100%でも使えまし、もちろん軽油との混合もほぼ問題ありません。

問題と言えば、軽油より7%エネルギー密度が低い事と、水素が高い分値段が高い事です。
いずれ水素が量産流通すればコスト面は抑えられるでしょう。

この二つがバイオディーゼル燃料です。

③SAF(持続可能な航空燃料)
 3番目の最終戦士SAF(Sustainable Aviation Fuel)ジェット燃料の登場です。

ゴミから生まれた航空燃料とか、廃油が飛行機を飛ばす的なキャッチフレーズで呼ばれる事の多く、フードロス問題やリサイクル問題に対する救世主として脱炭素時代の空を飛ぶエースとして各国が注目中しています。

製造方法はHVOと同じです

油を前処理して
HDOで酸素を別れさせ
ハイドロクラッキングで細長いパスタのようなnパラフィンを切り揃えるところまでは所までは同じです。しかし、SAFの場合さらに短くクラッキングして太短くします。

つまりペンネやマカロニのようにして、より粘度の低いサラサラのオイルにするわけです。
この状態のSAFは炭素連鎖がC8-C16の短い状態です。HVOが炭素数C15~C20個ですから役半分の短さです。

SAFは水素を大量に消費するのと、触媒に高価なPtプラチナやPdパラジウムを使います。そうするとより切れ味が増すのですが、乱れ切りで暴れるので、もっと細かなナフサ(C5~C7)や切り損ねた軽油(C15~C20)のが副生成物として生まれますので、分離精製して晴れて航空ジェット燃料SAFが誕生するのです。

SAFは幾つもの分子で出来ています。

 ノナン(Nonane)C₉H₂₀

ドデカン(DodecaneC₁₂H₂₆
イソパラフィン(Isoparaffin) C₁₃H₂₈
右の図でも分かるように大量の水素で囲まれサラサラを保っています。

SAFはその名の通りサステナブルな航空燃料です。もちろん燃焼時CO₂排出は従来のジェット燃料同様排出します。しかし原料が大気からCO₂を吸収した動植物の油や糖から出来ているため化石燃料のように地下のバイオマスからの放出は少ないという意味のサステナブルです。

コストは現在、化石ジェット燃料の3~5倍と言われています。これから水素がもっと安価に流通するようになり、電気も再エネ価格が下がればもっと安価なバイオ液体燃料が普及する事が期待されています。

今は高価なバイオ燃料を10%とか混ぜてCO₂排出を少し減らしています。と航空会社や運送会社は歌っていますが、彼らこそ本当は100%サステナブル燃料を使っていますと胸を張って叫びたいのではないでしょうか。

その日までもバイオ燃料3戦士はヒーローの座を維持してもらいたいと願うばかりです。

もしかしたら、機体や車体にペブロスカイト太陽光発電シートを貼り付けた航空機や船舶や車などがと登場し、新たにスーパークリーン・ハイブリッド戦士が登場するかもしれませんね。

第7回 再エネ基礎解説 発電した電気を液体燃料に変えて貯める錬金術!?

自然とエネルギー
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

自然とエネルギーの代表取締役
20年にわたり1500件以上太陽光発電および蓄電池設備の施工を行い再エネ建築の最前線で活動してきました。
同時に、映像技術関連の業務を行い、動画写真撮影、イベントなどでの映像設備構築を行ってまいりました。

特にドローン等を用いた災害現場での映像情報の撮影活動も行い
2014年 Rescue3 (国際レスキュー資格)Technical Rope Rescue 山岳救助資格
2015年 Rescue3 Swiftwater Rescue 水難救助資格 取得

コメント

コメントする

目次