前回の記事では、再エネ発電した電気を、大型蓄電池や蓄電所に貯める事によって、再エネの欠点である間の悪さを可否しながら、災害時のBCP対策や抑制回避して買ってもらう方法や地方から都市への電気の輸出にいたるまでメリットを解説しました。
大型の定置型蓄電池を使う事で、どの時間帯にも安定した電力を確保し、質の悪かった電気の(Power Quality)を調整して優秀な電気にする事で、都市部へ繋がる電力網にも送れるようになり、需給バランス問題を解決出来る道が開かれようとしています。
そういった意味で大型蓄電所の普及は再エネ界の救世主とも言える存在です。
そんな救世主にも幾つか欠点があります。
①建設と維持コストが今は高い事
現時点ではリチウムイオンバッテリーが主流でニッケルやマンガンやコバルトといったレアメタルを使うので高額になりやすいですが、近年はレアメタルを使わない安価なLFP(リン酸鉄リチウムイオン電池)が使われるようになりだんだんコストが下がってきています。
②スタミナが足りない短期決戦型
貯めた電気を短期間で使う分には便利ですが長期保存すると言う局面には向きません。太陽光など1日で入れ替えがきく電力とは相性が良いですが、風力発電や水力発電など風が吹かない、水がたまらない季節があるなど発電できない期間が長いものは向きません。容量を大きくすると、コストがかさみ採算が取れなくなります。
③重量級なので移動できない
EV車などは移動が目的なので比較的容量と重量は小さめですが、定置型クラスの蓄電池はエネルギー密度に対して重量が重いので移動運搬が困難です。
しかし、今そんな常識を覆し、バッテリーを船に浮かべて運搬する計画が進められています。これで浮体式洋上風力発電など陸地から100km以上離れた沖合から、離島や都市部に電気を運搬出来るようになります。
大容量バッテリーでも船で浮かべれば低エネルギーで推進出来、海底ケーブルをコスト的に敷設できない離島や電力需要の大きな沿岸の都市に低コストで電気を運ぶことが出来るようになります。(https://oceanpowergrid.jp/)
この話はいづれ本格的に解説しますが、ここからが本題です。
蓄電池には幾つかの欠点がありますが、それを補う心強い仲間がいます。
それは電気を用いて燃料を作るPtL パワー・トゥ・リキッド(Power-to-Liquid) と呼ばれる錬金術です。
PtL:水と空気から液体燃料を作る技術
PtLとは発電した電気を使い、水と二酸化炭素(CO₂)から液体燃料を合成する技術です。まさに空気と水から資源を作る現代の錬金術と言えます。
できあがる燃料は「e-fuel(イーフューエル)」とも呼ばれます。
これにより太陽光や風力で作った電気を、長期保存や長距離輸送が可能な化学エネルギーに変換できます。

PtLのプロセス(簡易フロー)
1.水の電気分解(Electrolysis)
電気を使って水(H₂O)を水素(H₂)と酸素(O₂)に分解
ここで使う電気は再生可能エネルギー由来であることが肝
- 二酸化炭素の供給
- 発電所や工場の排ガスからCO₂回収
- もしくは大気中から直接回収(DAC: Direct Air Capture)
- 合成反応(Fischer–Tropsch法など)
- 水素とCO₂を化学反応させて液体燃料を生成
- FT(Fischer–Tropsch)法を用いる事でよりエネルギーの高密度化
精製・利用
PtLの最大のメリットは既存の燃料インフラ(タンク、パイプライン、スタンド)で運搬利用が可能なところです。という事はすでにマーケットも出来あがっていますので、作ればすぐに資金回収が始められるというイニシアチブがあるのです。
再エネの大きな課題は、インフラと市場開拓から始めないといけない事です。
例えば牧畜が盛んな田舎でバイオマス発電を行っても、発電する電気を使う町が小さく、都会へも売れない現実を前回説明しました。
しかし液体燃料であるPtLはタンク車でもパイプラインでも輸送できます。
しかも、今までの液体燃料とほぼ同じ成分な上、不純物がほぼ無いので、メンテナンスコストが下がります。
以下、代表的なPtLの皆さんを紹介いたします。
種類 | 製造方法(概要) | 主な用途 | 特徴 |
メタノール(e-Methanol) | H₂+CO₂を触媒反応させて合成 | 船舶燃料、化学原料 | 製造が比較的容易、化学原料市場も大きい |
合成ディーゼル(Synthetic Diesel) | H₂+CO₂からCOを生成 → FT合成 | トラック、重機 | 石油ディーゼルとほぼ同等の性質 |
e-ケロシン(e-Kerosene) | H₂+CO₂からFT合成 → 精製 | 航空機 | 航空燃料規格に適合、長距離航空対応 |
エタノール(e-Ethanol) | メタノール経由または直接合成 | 自動車燃料、混合燃料 | 既存のバイオエタノール代替 |
アンモニア(液化NH₃)※特殊ケース | H₂+N₂(空気)をハーバー・ボッシュ法で合成 | 船舶燃料、発電 | 常温では液体化に加圧が必要、CO₂を含まない |
DME(ジメチルエーテル) | メタノール脱水反応で生成 | LPG代替、ディーゼル代替 | クリーン燃焼、硫黄ゼロ |
液体炭化水素混合燃料 | FT合成やメタノール→ガソリン化 | 自動車、発電 | ガソリン代替として利用可能 |
これらPtLはどれも、カーボンニュートラルの次世代燃料として期待されています。
※合成アンモニアはCO₂を含まないので、理論的にはゼロカーボンですが、製造し高温高圧の炉を使用するためそこで化石燃料が使われるので、グレーアンモニアと呼ばれているのと、燃焼させるとNOx窒素酸化物を出すのでちゃんと回収しないと大気汚染を加速し、滞留オゾンを増加させ間接的に温室効果を高める事になります。
今回は現在最も利用が進んでいる。3つのPtLについて解説します。
これまでの使用実績が豊富で燃料だけでなく、工業的利用価値が高い、
ただし、注目して頂きたいのはC炭素の数です。そしてHの数も関係しますが、
燃焼とは、外から来たO₂酸素と結びついた酸化反応です。C炭素とH水素が簡単に分子から離れて、CとO酸素と熱反応してCO₂ H₂水素はO酸素と熱反応してH₂O水になります。
ですから、メタノールはCが1個とHが3つなので、エネルギー密度が低い燃料になります。
その分CO₂の排出が比較的少ない燃料になります。
さらに精製してエタノールC₂H₅OHにすれば、CとHが多いのでエネルギー密度は高くなります発熱量 21.1MJ/L
製造方法
- 再エネ電力で水を電気分解し、水素(H₂)を生成
2H2O→2H2+O22H₂O → 2H₂ + O₂2H2O→2H2+O2 - 回収したCO₂と水素を反応させ、触媒の下でメタノール(CH₃OH)を合成
CO2+3H2→CH3OH+H2OCO₂ + 3H₂ → CH₃OH + H₂OCO2+3H2→CH3OH+H2O - 精製して燃料や化学原料として利用
ポイント
- プロセスが比較的単純で、既存のメタノールプラントの改修で導入可能
- 化学原料市場も大きく、燃料以外にも用途が広い
自動車やトラックや従来型ボイラーや発電に仕える汎用性が高い燃料です。
エネルギー密度も高く、Cの数が多い(長鎖炭化水素)のでCO₂の排出量も多い
しかし、Cの数が多いと粘度が増し、揮発しにくく運ぶのが便利
その分効率の悪い炉で燃やすとスス(カーボンのカス)が出やすい

製造方法
- 水を電気分解して水素(H₂)を得る
- CO₂と水素から一酸化炭素(CO)を生成(逆水性ガスシフト反応)
CO2+H2→CO+H2OCO₂ + H₂ → CO + H₂OCO2+H2→CO+H2O - COとH₂(合成ガス, syngas)をFischer–Tropsch(FT)合成にかけて長鎖炭化水素を生成
(2n+1)H2+nCO→CnH2n+2+nH2O(2n+1)H₂ + nCO → C_nH_{2n+2} + nH₂O(2n+1)H2+nCO→CnH2n+2+nH2O - 生成物を分留し、ディーゼル燃料規格に適合する部分を抽出
ポイント
- 石油由来ディーゼルと化学的にほぼ同一
- 炭素数が13〜20程度の直鎖・分岐炭化水素が主体(長鎖炭化水素)
- 高エネルギー密度で長距離トラック・重機に適用可能
- 既存軽油系ボイラーにも使用可能、不純硫黄・芳香族成分ゼロ
軽油 排ガス中のSOxやPM(粒子状物質)が大幅に減る
代替航空燃料FASとして注目される。合成ディーゼルよりC炭素の数が少なく、少し揮発性が高いので、発火温度が低く、燃焼効率が良い、精製によるCの数の調整で、ガソリンとしても使えるが、価格が数倍高いので、航空燃料としてニーズが高い。
(航空業界はCO₂排出で非難を浴びてきた経緯とカーボン税回避の為に、高価でもカーボンニュートラルなe-ケロシンを選択するようになった)

製造方法
- 水の電気分解で水素(H₂)生成
- CO₂を逆水性ガスシフト反応でCOに変換
- COとH₂をFT合成にかけて炭化水素を生成(C₈〜C₁₆程度が中心)
(2n+1)H2+nCO→CnH2n+2+nH2O(2n+1)H₂ + nCO → C_nH_{2n+2} + nH₂O(2n+1)H2+nCO→CnH2n+2+nH2O - 分留・水素化処理を行い、ジェット燃料規格(ケロシン)に精製
ポイント
- 炭素数が8〜16程度の直鎖・分岐炭化水素が主体(中鎖炭化水素)
- 炭素数が少ないので粘度が低く、
- 既存の航空機エンジンでそのまま使用可能(drop-in fuel)
- 揮発性があるので以下の安全管理が必要(従来の航空燃料と同じ)
- 引火点は約38〜60℃で、軽油より揮発性が高い → 火気厳禁
- 蒸気が空気より重く、低所に滞留しやすい → 換気と漏洩検知が重要
- 消防法上は第4類第2石油類(危険物取扱の資格・設備が必要)
- 運搬はIMDGコードやIATA危険物規則に基づく
- 品質管理には合成燃料特有の規格(ASTM D7566)を満たす必要あり

このように性能面でPtLは純度の高い分、化石燃料を上回っています。
しかし現時点で大きく分けて2つの課題が残っています。
PtLの抱える大きな課題
①再エネ発電との連結が少なく、化石燃料の火力発電の依存度が高い
再エネ発電のみの電力を用いて製造された燃料や製品をグリーン
化石燃料を用いて製造された燃料や製品をグレー
化石燃料を用いて発電する際にCO₂やNOx、温室効果ガスの除去処理して作られた電気で作られたものをブルー
現時点ではグレーPtLやブルーPtLの比率が高い
今後再エネ発電の、初期投資額が下がり、資金回収が早まればPtLへの電力供給率が高まりグリーンPtLの普及率の上昇も期待される。
②製造に用いる、電力と原料の調達の問題
電気分解によって得られるH₂水素調達の電力に関しては①の理由で、再エネ電力の供給率が低く、再エネ発電所や蓄電所の建造コストの回収に時間が掛かり、本来、維持メンテナンスのみで、資源のいらない現価無料の太陽や風力、地熱 水力の価格的な恩恵を受けられず、製造コストプッシュしている。
CO₂の調達方法は?
次に原料調達ですが、CO₂は大気から得る方法DAC(Direct Air Capture)は非効率でかえって現価を引き上げます。大気のCO₂は約0.042%=420ppm(産業革命前は280ppm程度)です。大気のCO₂濃度が高くなったとはいえ、0.042%をバキュームして取り出すには、どデカい吸引機とフィルターの施設が必要になります。
となると、CO₂が濃く沢山あるところ・・・そう火力発電や工場の排ガス(CO₂濃度 約5〜15% 大気の120倍~360倍)から取ってくれば良いわけです。吐いて捨てると怒られる訳ですから幾らでも貰えるはずでは!?
CCS(Carbon Capture and Storage)
CO₂排出源から排出する前に回収して保管してしまおうと言う方法です。
幾つか方法がありますが、大型の火力発電所で用いられているのは、
化学吸収法(アミン吸収法)アミン水溶液にCO₂を化学反応で吸収させ、加熱して放出して圧縮装置で回収する方法です。
回収したCO₂は枯渇油田やガス田に注入したり、1000m以上の深さの海底の深部塩水層(濃い塩水の溜まったスポンジのような地層)に閉じ込めます。
※CO₂の混じった濃い塩水は浮力が無いので、上の薄い塩水が蓋の役割をする
日本各地で実装の計画化進行していまますが先行しているのは、北海道苫小牧市の火力発電です。
CCSは地上に放出された、CO₂を再び地下に戻すので、CO₂削減効果が高い方法です。
今回の話題はPtLの材料にするには回収したCO₂を燃料化して利用する方法です。
回収したCO₂からリサイクル利用
CCU(Carbon Capture, Utilization)と言います。
総称でCCUS(Carbon Capture, Utilization and Storage)とも呼ばれます。
CCカーボンキャプチャーして集めたCO₂をPtL工場に送るか、PtL装置を併設すれば高品質の燃料を永続して生み出せる事になります。
CCカーボンキャプチャーはカーボンクレジット収益を生み出すだけでなく、エネルギービジネスをも生み出す事が期待されています。
現実、今世界で排出されるCO₂の回収量は5000万トンに過ぎず回収率は0.1%に過ぎません。しかし逆に言えば、これからコストダウンが図られ、CC装置が小型化すればあらゆる場所で回収が行わればCO₂を大量に確保できるキャパがあるという事です。厄介者だったCO₂が資源になるという事です。

これまで資源やエネルギーの大半を輸入に頼っていた日本や他の国々は資源エネルギーを自給自足し地産地消出来るようになるという事です。現代の錬金術は空気と水からエネルギーや資源を生み出す技術です。これはある意味、金を超える価値があるのではないでしょうか。
多くの紛争が資源やエネルギーを奪うために行われてきました。奪う必要が無くなれば争う理由も無くなります。
平和の価値はきっと金をも超えると私は思います。
第6回 再エネ基礎解説 起死回生の救世主!! 発電した電気を貯める!?

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