第6回 再エネ基礎解説 起死回生の救世主!! 発電した電気を貯める!?

第5回では、再エネ普及の、一番の問題は「間の悪さ!!」であると断言しました。

そして再エネ問題を電力需給を会社に例えて、社長(政府)の肝いりで入ってきた、再エネ課長が、間も空気も読まず、上司や部下をかき乱す存在になっている、といじり倒してしまいました。

※私は再エネの味方です!!愛ゆえのいじりなんです。

さらに問題なのは、地方の送電網が貧弱なのと、電気の質(Power Quality)が安定しないので、優秀な都市部へ送る送電網に混ぜてもらえないことが再エネ発電の大きな壁になっていると解説しました。

タイトルではこうした問題の起死回生の救世主が電気を貯めると大見得を切りました。はたして大丈夫でしょうか!?

今回はその理由と課題について解説いたします。

目次

エネルギーを貯める、人類発展の鍵

「エネルギーを貯める」これは古来から行われていました。

昔々、お爺さんは山へ芝刈りへ、お婆さんは川へ洗濯へ・・・

この昔話のお爺さんの芝刈り(木々集め)はエネルギー調達です。昔の人は山と言う大きな貯蔵庫から細かな木々を持ち帰り、売りに行ったり、煮炊きや暖房に活用していました。

更に効率の良いエネルギーを確保するため、木々を炭に加工したり、動物や植物から油を採り照明や熱源として利用してきました。

エネルギーを貯める事によって暮らしは楽に安全になり、人口は増え文明は発展しました。さらに人口が増え、産業が発展したために、地下のバイオマスから、化石燃料を掘りエネルギーの大量採掘と貯蔵と使用のサイクルが出来上がりました。これが現代の温室効果ガスによる自然環境破壊につながってきました。

木や炭や油などの物質燃料は、貯蔵したり輸送したりすることが簡単です。

しかし、電気は違います。小さな電気機器は乾電池やバッテリーに貯めた電気を使う事が出来ました。しかし、住宅や工場や施設ビルなどの電気は、使用状況に合わせて発電し瞬時に供給しなければなりませんでした。だからこそ間の悪い再エネ発電は非効率だと多くの人々から非難を受けてきました。

問題児・再エネ課長についに起死回生のチャンスが!

間の悪い再エネ課長というキャラ設定をしてしまいましたが、近年ついに救世主が現れました。それはもちろんご存じ!!蓄電池です。
なあんだ当たり前のことを言うなよ! ちょっと大きなバッテリーでしょ、お金持ちの家に設置したり、EV車を走らせたり、いざと言う時 少しの間電気を使えるってあれでしょ!?

もちろん当たり前の大きなバッテリーのことです。そのバッテリーがこの2年で大きな躍進と進歩を果していることはご存じですか。

これまでのバッテリーは【わがままな恋人】のようでした

充電容量が小さい:
【器が小さく飽きやすい】数時間から1日程度しかもたない

充電スピードが遅い・効率が悪い:
【機嫌を直すのに時間が掛かる】 EV車の充電に数時間や一晩かかる

耐久性が低い:
【飽きるのが早くすぐ不機嫌になる】電池寿命の減少が早くコスパが悪い
【挙げ句、怒ってキレる】時には火災事故を起こす。

と考えられてきました。これが人なら顔が良くても付き合うのに二の足を踏むのでは・・
だからこそ敬遠されてきたと言えます。

しかし、この2~3年の成長と躍進は目を見張るものです。

 ◾ リチウムイオン電池の高密度化とEV急速充電技術

  • CATL(中国)やパナソニック、BYDなどが、1回の充電で800km以上走行可能なEV向け電池を発表
  • 急速充電技術も進化。テスラのスーパーチャージャーV3では15分で320km走行分の充電が可能に
  • 大型バッテリーからのEV急速充電:これまで急速充電には、高圧(6600v)受電が必要でしたが、大型バッテリーとEVチャージャーを組み合わせる事で、低圧(200v)の小型の施設でも、高圧と同等以上の急速充電が可能となり、小型施設や店舗での利用や、太陽光発電からの充電も容易になり、災害時のBCP対策(Business Continuity Plan)になり事業が継続できるようになりました。(by Power X社)

◾ 系統用蓄電池も急拡大

  • 九州・北海道など、再エネ余剰対策として50MW級の系統用蓄電池が稼働開始
  • アメリカ・中国では、1GWh級(100万kWh超)のメガ蓄電所が稼働
  • 日本でもNEDOやエネ庁主導で、蓄電池併設型の再エネ発電所が増加中

◾ 固体電池(全固体電池)の実用化に近づく

  • トヨタやQuantumScape(米社)が2027年に全固体電池の量産計画を発表(航続距離1,200km、10分充電)中国CATL社も猛追 技術では日本勢、量産では海外勢がしのぎを削っている。
  • 液漏れや膨張もなく、リスクだった発火・寿命問題の克服が近づき安全性向上、EVや系統用蓄電池への展開も視野に
  • レアメタル(コバルト)不使用で低価格で量産化が可能、コバルト採掘は主にコンゴ民主共和国において児童労働や人権無視の採掘が問題であったが人権問題も解消が期待される。

リチウムイオン電池の資源争奪問題

リチウムイオン電池はいまや世界のバッテリー産業の根幹であり、それによって、多くの資源採掘と争奪紛争を引き起こしています。

中でもレアメタルであるコバルトを電極に使うため、争奪と価格高騰がEV車の価格高騰の要因となっている。

コバルトの産出世界第一位はコンゴ民主共和国です。そのコバルトの採掘にあたりASM危険な手掘り採掘が、武装勢力によって行われ、採掘量の15~30%を占めると言われています。それによって低賃金の児童が少なくとも2万5千人が働かされ、資金源に利用されています。故に2023年まで紛争鉱物の指定を受けていました。

人権問題は改善の兆しを見ていますが、価格の高騰に歯止めがかかる事はありませんでした。
さらにリチウムイオン電池の問題は水資源問題です。
リチウムイオン電池は大量の水を必要とします。

深刻な「塩湖からのリチウム採掘」

チリ・アルゼンチン・ボリビアの「リチウム・トライアングル」では、塩湖(塩水)からリチウムを採取します。
地下のリチウムを含む塩水(かん水)を大量に噴出させ、巨大な蒸発池で1年以上かけて太陽乾燥させて濃縮させ更に水を消費させます。

これにより、1トンのリチウムを得るのに約200万リットル(=2,000トン)もの水が消費されるとされると言われています。

これにより乾燥地帯(アタカマ砂漠など)での水資源枯渇が生じ地元先住民や農業への影響(井戸の枯渇、地下水位低下)が深刻な問題となっています。

電池製造プロセスにおける水使用

リチウム製造段階でも水を多く使用します。

  • 電極のスラリー製造に使用する溶媒(NMPなど)の洗浄・再生
  • 電解液やセル組立の乾燥・冷却・精製工程での水使用
  • 工場全体でのクリーンルーム加湿・湿度管理・冷却設備
  • Giga工場規模になると、年間数十万トン~数百万トンの水使用
  • 地域の水資源への圧力となり得る
  • テスラは「水の再利用率90%以上」と主張するが、これは現実には達成が難しいとされる

水資源争奪紛争の時代へ

今後、多くの紛争の要因が、エネルギー資源や鉱物資源から、水資源の争奪にスライドすると言われています。リチウムイオンの採掘製造だけでなく、様々な工業製品の製造やエネルギー転用に大量の水を消費します。地球上の淡水は水全体の2.5%しかなく、使用可能なのは0.01%に過ぎません。その0.01%の水をめぐって、争奪戦が経済だけでなく、民族問題、軍事問題に発展しています。

現時点でも

チリ・アルゼンチン ボリビア
塩湖型リチウム採掘による水紛争国家間の対立が表面化しておりアタカマ塩湖では先住民族と鉱山会社が対立

中国・インド・東南アジア:越境河川のダム問題
チベット高原から流れるメコン川・ブラマプトラ川などの上流に中国が巨大ダムを建設
下流国(インド・ベトナム・タイなど)が水量減少や農業被害に抗議

エチオピアの巨大ダム「GERD」をめぐり、下流のスーダン・エジプトと軍事的緊張

これらの紛争は一部であり0.01%の水をめぐり、紛争や外交カードの切り合いが始まっています。

日本においても、北海道や九州や長野の山林の外資系企業の買収が進んでおり、法改正による水源の保全が追いついていない事が問題となっています。

水資源は21世紀において「次なる石油」とも呼ばれ、国家間の争奪・紛争の火種になりつつあるのです。

クリーンなエネルギを貯める事が、災害や紛争、地政学リスクを軽減する

全個体電池や次なる再生可能エネルギーの開発は、レアメタルや水資源の大量使用からの脱却のもとに計画されていて、レアメタルと水資源の紛争問題の救世主となることが期待されています。

大型蓄電所が各地に設置されることによって、地方の再エネ電気が無駄なく地産地消出来るばかりか、災害時送電網が被害を受け遮断されても、再エネ発電と蓄電によって、インフラが麻痺することなく地域単位でのBCP対策を行えるようになります。

これまでは上流の送電網が破損した場合、下流の全域が停電し麻痺していましたが、今後は地域ごとに発電と蓄電を行うインフラを整える事で被害を受けた地区を隣の地区で救援する事が出来るようになります。傷口の細胞がダメージを受けても、隣の細胞が元気なら傷口の治りは格段に早くなるのと同じです。

さらに、大型蓄電所が地域にあると、エネルギーの地産地消だけでなく、念願のエネルギーの都市部への輸出が可能になります。

前回、再エネ電気は統率のとれない愚連隊のようなもので、優秀な精鋭エリート部隊である、超高圧電線網に送り込めない、電気の質(Power Quality)問題が壁になってきたと解説していましたが、大型蓄電所はバラバラに入隊した再エネ電気兵を訓練する教官になってくれるのです。

蓄電池で貯められた電気は、周波数の安定化や電圧制御、高調波カット等の訓練を受け、規律正しい行軍を行えるよう鍛えなおされるのです。

これにより晴れて超高圧電線部隊に配属され、都市部への行軍(輸出)が可能になるのです。

別の機会に取り上げるつもりですが、今、遠い海で建設予定の浮体式風力発電の電気を送電網ではなく、大型蓄電池を積んだ電気運搬船を直接都市に運搬する電気揚陸計画がスタートアップビジネスとして始動しています。

このように電気を蓄電池に貯めるという事は、石炭や天然ガスを用いた火力発電の依存率を下げる事に繋がります。こうした化石燃料は海外に依存しており、日本が想定する様々な有事の際に供給が途絶するリスクを孕んでいます。

ですから地政学リスクを抑えるために、天然ガスや重油など紛争想定地域を通るエネルギーの依存を下げ、比較的地政学リスクの少ないオーストラリアから石炭を大量に輸入し火力発電を軸にする方針を日本は取っています。

蓄電所の増加による再エネ普及は、災害や紛争などの有事に強い日本を作ります。

バラバラだった再エネたちを一つにまとめて団結させエネルギー問題と脱炭素社会を作る切り札になります。

今はリチウム電池で問題とコストを孕む蓄電池ですが、個体電池の台頭や、水素インフラの普及により今後はバランスが取れるようになることでしょう。

ここ2~3年で状況も環境も大きな変化を遂げてきました。このあとの5年は加速度的に変化の訪れる時代になります。

その変化に対応するために、私たちのマインドを変える事と、大きな投資をすることは大切ではないでしょうか。栄養や酸素が滞りなく巡る身体は健康で活力に溢れます。脱炭素の取り組みは、健康で健やかな国を作るのに欠かせないものです。

クリーンで安定した再生可能エネルギーの地産地消化は環境負荷の少ない健康な国を作るのに貢献します。競争して他から奪う必要もありません。

その技術やノウハウを輸出入することで、利益と信頼を得ることが出来ます。

そして他の国々が等しく健康になれば、エネルギーや資源を奪い合う必要自体が無くなるのではないでしょうか。

そんな甘い夢は前に進むエネルギーを与えてくれます。

次回は燃料を貯めて活用することを取り上げたいと思います。

第5回 再エネ基礎解説 再エネ発電の課題ってなに?

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この記事を書いた人

自然とエネルギーの代表取締役
20年にわたり1500件以上太陽光発電および蓄電池設備の施工を行い再エネ建築の最前線で活動してきました。
同時に、映像技術関連の業務を行い、動画写真撮影、イベントなどでの映像設備構築を行ってまいりました。

特にドローン等を用いた災害現場での映像情報の撮影活動も行い
2014年 Rescue3 (国際レスキュー資格)Technical Rope Rescue 山岳救助資格
2015年 Rescue3 Swiftwater Rescue 水難救助資格 取得

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