第4回「ごみ」からエネルギー?―バイオメタン発電の可能性と下水処理場の知られざる実力

ゴミ問題
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意外なエネルギー源、あなたの家から生まれている?

たとえば朝の歯磨き、トイレ、料理。そんな日常の営みから発生する“見えない資源”が、実は電気になっているとしたら信じられるでしょうか?

それが「バイオメタン発電」です。この記事では、バイオマス燃料の中でも注目されつつある「バイオガス(メタンガス)」に焦点を当て、家庭の排水や食品廃棄物がどのようにエネルギーへと生まれ変わっているのかをご紹介します。


 バイオメタンとは?

バイオメタン(biomethane)は、有機物が、酸素のない環境(嫌気性)で分解されてできるガス「バイオガス」から精製される、メタン濃度の高い燃料ガスです。
このバイオガスは以下のような資源から作られます:

  • 家畜の糞尿
  • 下水汚泥
  • 食品残渣・生ごみ
  • 稲わら、落ち葉、雑草 など

バイオガスの主成分は**メタン(CH₄)50〜70%で、発電・熱利用・都市ガスインフラへの注入に使えます。

なぜCO₂を出しても“エコ”なのか?

メタンガスを燃やすと、当然ながらCO₂が排出されます。しかし、原料は元々植物や食品などが吸収した大気中のCO₂です。

つまり「バイオメタンを燃やして排出されるCO₂は、もともと地球にあったもの」という考えにより、カーボンニュートラルと見なされるのです。

⚠️ ただし注意点も。原料を遠方から運べばトラックの排ガスなどでスコープ3のCO₂が増え、環境負荷を上げてしまう場合も。
そのため、原料が「その場にある」ことが最もサステナブルです。

豊橋市が「ごみ」で100%自給と街のアンチエイジング?

愛知県豊橋市にある「中島処理場」では、家庭から出る生ごみと下水汚泥を混合してバイオガスを生成し、発電と熱供給のすべてを自家消費しています。
これにより、同処理場は外部から電力を買わずに完全自立運用が可能となり、自治体が「ごみ発電所」に変身した珍しい例として注目を集めています。

この施設では、家庭や学校、スーパーなどから出る食品廃棄物と下水汚泥を混合し、嫌気性発酵によってメタンガスを生成。そのガスを活用して発電を行い給湯や暖房などの熱供給設備にも使われ、外部からのエネルギー購入はほぼゼロ、100%自給しています。

しかも余った電力を電力会社に販売し年間3億円の収益を上げているのです。

発電設備:約1,000 kW(1 MW)級のガス発電機が設置

年間売電量:約680万 kWh 

これは 一般家庭約1,890世帯分に相当します。

しかも、このシステム導入で年間ごみ処理経費を約3億円減らし、売電収益で3億円計上され合わせて6億円の経済効果を生んでいて、その費用を老朽化したインフラ改修費に充てられていますから、まさに都市の再生アンチエイジングの効果を生んでいるのです。

地方においてはこれから、古いインフラ改修の費用がまかなえず、人の居住に適さなくなり破綻する自治体が増えると言われています。
ごみの活用でインフラを維持するだけでなく再生回復まで行える、地方再生の鍵を握っていると言えるのです。

市民のリテラシーの向上

この取り組みの素晴らしいところは、施設のシステムだけではなく、市民の理解により成功したことにあります。

この処理場の取り組みは市民にも分かりやすく公開されており、見学コースには「下水からエネルギーが生まれる瞬間」を体験できる仕掛けまで用意されています。

市民が自分たちの出すゴミが温室効果ガスの削減に寄与している事を理解することが重要なことでした。
バイオメタンを効率的に発生させるには、生ごみの異物の混入を減らすことが鍵になります。

豊橋市ではこのプロジェクトを単なる技術導入では終わらせず、市民の意識と行動を変えるチャンスとしても捉えました。

  • ごみの分別ルールをわかりやすく説明したパンフレットや動画教材を地域で配布
  • 処理場では見学会や学習プログラムを定期開催。子どもから高齢者まで「ごみとエネルギー」の関係を体感できる場に
  • 市民モニターを対象に、家庭のごみを「バイオガス適性ごみ」として出すチャレンジも実施して実証実験をくりかえして、実際的な分別ごみ回収ルールが作られる。

このような取り組みが、市民の環境とエネルギーへのリテラシーが向上され、分別の一手間が地球温暖化防止に寄与している自負を産みます。このリテラシーの向上こそが、新たな再エネ普及の原動力になり、住み良い街づくりに貢献する。そのモデルケースになっているのではないでしょうか。

下水処理場がエネルギー基地になる時代へ

2025年時点で、日本全国の下水処理場のうち118か所以上がバイオガス発電設備を導入しています。中でも東京都の「清瀬水再生センター」では、年間12,500トンのCO₂削減効果が報告されています。

下水道インフラが完備された日本において、輸送距離によるScope3(他業者輸送によるCO₂が排出責任)をほぼ回避でき、これまで都市部では普及の難しかった、他のバイオマス燃料の活用を、人の多い都市部だからこそ効率的に燃料(排泄物)の調達が出ます。

それはまさに地産地消のエネルギー革命と言えるでしょう。

今後の課題と可能性

◆ 課題:

  • 初期投資が高い(発酵槽・精製装置・発電設備)
  • 原料の安定供給が必要 : 地域格差が大きくなる、人口過密地か酪農エリアが有利
  • 下水処理場とごみ収集場が分設してる:下水汚泥と生ごみを混ぜると発酵効率が2倍になる。併設が理想的
  • 微生物の働きや温度管理に手間がかかる

◆ 可能性:

  • 生ごみの資源化と地域循環型社会への一歩
  • 都市ガスへの注入(実証中)により既存インフラ活用が可能
  • LNG( Liquefied Natural Gas)の液化メタンガス製造の普及に伴い、輸送燃料への活用が一般的になる、特にEV化が難しい長距離・大型輸送における脱炭素燃料としてBio-LNGは極めて有望

バイオメタンは「次世代ロケット燃料」

あなたの台所の生ごみが、未来にはロケット燃料になって宇宙へ旅立つかもしれません。

実は、クリーンで安定した燃料であるメタンは、すでに「次世代のロケット燃料」として世界中で注目されています。そして、それを再生可能な形で作り出す「バイオメタン」の価値が、いま宇宙開発の分野でも高まりつつあるのです。

なぜメタンがロケット燃料として注目されているのか?

特徴内容
クリーン燃焼時にすす(カーボン)をほとんど出さない → 再利用型ロケットに最適
冷却に有利極低温で液体化(LNG)しやすく、酸素タンクとの冷却サイクル設計が容易
エネルギー密度比推力(ISP)も高く、液体水素より取り扱いが安全で安定性が高い
火星資源で作れる火星大気のCO₂とH₂からメタンが合成可能(サバティエ反応) → 宇宙探査に理想的

近い将来、台所の生ごみや排泄物が、ロケット燃料になって宇宙へ旅立つかもしれません。

ごみ燃料で火星まで行き、火星の大気から作ったメタン燃料で地球に帰ってくる、そんな未来のために、ごみ分別を今から始めるのは如何でしょうか。

そう思うと、自然とエネルギーとの関わり方が少しだけ面白く感じられませんか?

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この記事を書いた人

自然とエネルギーの代表取締役
20年にわたり1500件以上太陽光発電および蓄電池設備の施工を行い再エネ建築の最前線で活動してきました。
同時に、映像技術関連の業務を行い、動画写真撮影、イベントなどでの映像設備構築を行ってまいりました。

特にドローン等を用いた災害現場での映像情報の撮影活動も行い
2014年 Rescue3 (国際レスキュー資格)Technical Rope Rescue 山岳救助資格
2015年 Rescue3 Swiftwater Rescue 水難救助資格 取得

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