第3回にして、やっとバイオマスエネルギーについて話したいと思います。
第1回で述べたように、バイオマス=再生可能エネルギーではなく、バイオマスと言うのは
生物資源(bio)と質量(mass)つまり、自然界にある有機物資源の総量
それが、地上にある物と、地下にある物に分けられ、地下にある物を地上に持ってきて短期間に使うことで、温室効果ガスや廃棄物汚染など悪影響が広まってきている、のでその対策に皆が頭を悩ませているわけです。
第2回では、自然界の環境や生態系は、人体と同じで、絶妙なバランスで出来ており、少しの変化で体調不良を起こすことを取り上げまた。
さて、私自身はこれまで、太陽光発電や蓄電池などは1000件以上の実績があり多少なりとも知見はありましたが、バイオマス燃料に関しては3年ほど前に、エネルギー関連の事業展に行くまであまり知りませんでした。しかし、知れば知るほどその重要性や課題に気付き奥深さや難しさも思い知らされました。
基本からの話から入りますが、バイオマスエネルギーの代表と言えばバイオマスボイラーと言えるでしょう。
バイオマスボイラー燃料とは
バイオマスボイラーの燃料には廃棄木材や間伐材、一般木材 稲わらや農業廃棄物が用いられています。
さらに現在食品廃棄物の燃料化も一部進められています。(食品系の話はまた別の回に)
こうした燃料素材をボイラーで効率よく燃やすために細かい形状に加工します。
木材チップ : 木材を細かく砕いたもの
価格: 1トンあたり約5,000〜12,000円(地域によって異なる)
特徴: 大規模なボイラーや産業用途でよく使用され、コストは木材ペレットより安価ですが、取り扱いや保管に手間がかかることがあります。
燃焼効率が不安定なのと、ボイラーのメンテナンス費用がかさむ欠点があります。
ペレット : 木材や農業残渣を微細に砕き圧縮して作られた小さなペレット
価格 : 1トンあたり約15,000〜30,000円(日本の場合)
特徴 : 高効率でクリーンに燃焼し、保管が容易ですが、価格は他のバイオマス燃料より高めです。
PKS(Pine Kernel Shell):
PKSは松の実の殻を指し、主に木質バイオマス燃料として使用されます。これらの殻は、松の実を取り出した後に残る副産物であり、バイオマスエネルギーの一部として利用されることが多いです。またアブラヤシの核殻やココナッツ殻もPKSとして扱われ、年間600万トン程輸入されています。価格も木質ペレットより安価だが、近年需要の高まりで値段が高騰している。
なぜ?バイオマス燃料が再生可能エネルギー
バイオマス燃料はボイラーで燃やす事で、熱利用や火力発電として電力供給に用いられます。しかしボイラーで燃やすものはCO₂を排出します。それも大量にです。
それなのにカーボンニュートラルと言われるのは、同じ地上のバイオマス内で、大気から吸収したCO₂で育った植物の廃棄物を用いて燃料としてCO₂を排出しているので、サイクル内でプラスマイナスゼロつまりカーボン量はニュートラルになるという考え方です。

であれば、すでに排出されたCO₂を減らす事はありません。植物の吸収量を以内の排出にとどめなければ、大気のCO₂濃度は高くなることになります。
ですからバイオマス燃料は、現状維持という意味での持続可能型サステナブルと言えます。
では、それでは環境破壊が止められなので無意味なことなのでしょうか。
いいえ、化石燃料の熱利用や発電に置き換えることで地下のバイオマスからのCO₂の排出を減らすという重要な役割があるのです。排出削減とは地下の化石燃料からのCO₂の排出量の削減というディフェンダーとしての重要な役割を担う存在です。
ゼロカーボンへの挑戦は総力戦
温室効果ガスの削減には、オフェンスだけでなくミッドフィルダーやディフェンスとの連携が重要なのではないでしょうか。
バイオマスボイラーやバイオマス発電が、地下勢力(化石燃料のことです)の進行を食い止め、兵力を削ってくれれば、そのうちにミッドフィルダーである、ゼロカーボンチーム、太陽光発電、風力・水力・地熱などの勢力が体制を整えエネルギーインフラの基盤を整え、その間にオフェンスである、自然界や農業のCO₂吸収部隊、そして新兵器である、開発中で実践投入待ちのカーボン回収装置たちが攻勢をかけるという手を打つことが出来るのです。まさに総力戦でその連携が勝利への鍵です。
バイオマス燃料は真っ先に敵を迎え撃つ前衛部隊なのです。これで温室効果ガスを倒す日は近い勝利をわが手にぃぃぃっ!!といけば良いのですがそう易々とはいきません。
バイオマスボイラーの抱える問題点
最大の問題点は、需要と供給のバランスが無茶苦茶難しいということです。
使用するエネルギー量も変化が激しいです。地域や季節、時間によって変動します。
一方バイオマス燃料である木材の廃材や間伐材、農作物残渣などを回収し加工して、ボイラーへ供給するその量と時間のバランス調整がとれていないのが現状です。
日本においては林業従事者が減り、植林と間伐まで手が回らず、山林は荒れています。
そして回収と運搬には多くのコストがかかります。そして伏兵として、運送や加工のエネルギーの多くは、化石燃料や化石燃料由来の電気が用いられています。地下勢力は油断なりませんね。
様々な問題を潜り抜けバイオマスボイラーにたどり着く木材チップやペレットの量は需要に対して足りないのが現状です。戦力不足を補うにはどうすれば良いでしょうか!?
外人部隊 傭兵を雇うことです。しかし輸送や加工、世界的需要のために国産より高くなります。それでもエネルギー需要に答えるため、そして稼働実績を維持して政府からの補助金をもらうため日夜戦い・・稼働し続けているのです。
とくに発電分野では、2024年時点で燃料の7割が外人部隊と言う状況です。
日本における、国内燃料の総量は?
間伐材と木材廃棄物はバイオマス燃料として利用されており、年間で発生する量(500万トン以上の間伐材と一般木材そして200万トンの木材廃棄物)は、バイオマス発電所やボイラーでの使用に十分に対応できる量とされています。ただし、全ての間伐材や廃材がバイオマスエネルギーとして利用されているわけではなく、他の用途(例えば製材や木材加工など)にも使用されます。
農業残渣(稲わらや麦わらなど)は、約400万トン程度発生しており、これもバイオマス燃料として利用可能です。
もしこれらを効率的に回収加工できれば、1100万トンものキャパがあり、輸入に頼らなくてもバイオマス燃料分野での需要の大半を満たせることになります。
これが出来ないのはエネルギー需給のバランスをコントロールすることが出来ていないからに他なりません。
戦争において、いくら徴兵が上手くいき戦力がそろっていたとしても、戦局と戦況の調査と作戦の立案、それに合わせた戦闘訓練や指示が上手くいかなければ、期待された戦果が出せないどころか、バラバラに各個撃破され兵を失っていくことになります。
苦戦を強いられた、事業者が毎年撤退していき、その数は増えることが予測されています。
韓国のバイオマス事業縮小に見える深刻な問題
おとなり韓国も日本と同様バイオマス事業の促進に力を注いでいました。しかし2024年末、韓国国内のバイオマス発電事業への補助金の段階的廃止を取り決めました。
これは燃料の価格高騰や採算見通しの問題だけではありません。
韓国も日本と同様、輸入木材燃料に依存していました。
その多くが、カナダやアメリカ、そして近年インドネシアやマレーシア、ベトナムなど東南アジアからの木材ペレットが多く占められているのです。
それらの木材ペレットは森林を維持するための間伐作業や廃材ではなく、燃料にするために森林を新たに切り開いて作ったものでした。
これでは本末転倒ではないでしょうか? CO₂削減の主戦力は何といっても森林や熱帯雨林です。補助金で潤う業者は補助金の目的であるCO₂削減のかなめの森林を破壊して利益を維持してきたのです。インドネシア政府はエネルギー供給国になるべく、森林伐採事業を国を上げて推し進めてきました。それを食い止めるには国としてNOの意思を示すそのために韓国政府は補助金の廃止を発表したのです。
学ぶべき点がある事例ではないでしょうか。自然環境を守るための事業や活動自体が自然を破壊しているのであれば本末転倒です。その間違いは正して前に進むべきです。
そのためにはファクトを正しく理解し、問題を修正しながら歩むべきです。決して歩み自体は止めるべきではないのです。
日本のバイオマスボイラー燃料の実態
バイオマスボイラーを用いた、熱利用と発電
熱利用は、工場プラントや空調設備、温泉施設などで利用
発電はFIT/FIPといった国の電力買い取り制度の認定を受けた発電事業者が行っています。
この発電に使われる燃料の70%以上が輸入燃料に頼っているようです。(2024年調べ)
このうち役半数がPKS(松の実殻やヤシ殻などの廃棄物)、残り半数はほぼ木材ペレットです。(2025年3月時点、財務省データ)
輸入木材ペレットのほとんどは、間伐材や廃材ではなく、燃料目的に伐採された森林や熱帯雨林の木々です。
つまり、カーボンニュートラルのオフェンス(CO₂吸収役)である、自然の森林や熱帯雨林を削り取って、CO₂排出する燃料にしてしまう事は本末転倒であり、カーボンニュートラルチームの中で裏切り行為にあたります。
韓国でも同様ですが、日本でも国産木材チップのうち、間伐材や廃材ではなく、燃料目的で伐採されることや、製材目的で切られた木材を燃料用に転売してしまう事が少なくないようです。
燃料が足りなかったり、安定供給に不安があると、当然価格が上昇します。
それによって、製材業界や製紙業界、農業団体は必要な木材やおがくず等をより高く買わないと、燃料に取られてしまうと嘆いています。
日本と韓国は同様の問題を抱えていますが、韓国は先に国としてメスを入れました。
日本は韓国と同じ道を歩むか、別の方法を取るのか問われています。
市場原理だけに任せて需給のバランスを取っていると、上記の問題が加速するのは目に見えています。国がかじ取りをして主導し、木材の伐採と植林、市場への供給方法の整備、エネルギー需給計画に合わせた、バイオマス燃料の分配率を決めて監督しなければ、バイオマス産業は信頼を失い、重要なディフェンダーとしての地位を失う事になるのではないでしょうか。
私たち自然とエネルギーは、バイオマス業界の健全な発展を願い応援しています。

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